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最高裁判所第三小法廷 平成元年(あ)28号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人佐藤義行、同榊原卓郎、同武山信良、同小松哲の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であり、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、職権により判断する。

法人税法は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、売上原価等の原価の額、販売費、一般管理費その他の費用の額、損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとし(二二条三項)、これらの額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」という。)に従って計算されるものとしている(同条四項)。ところで、原判決の認定するところによると、不動産売買等を目的とする被告人株式会社エス・ブイ・シーは、所得を秘匿する手段として、社外の協力者に架空の土地造成工事に関する見積書及び請求書を提出させ、これらの書面を使用して二事業年度で総額二億八四六四万二二〇〇円の架空の造成費を計上して原価を計算し、損金の額に算入して法人税の確定申告をし、右協力者に手数料として合計一九〇〇万円を支払ったというのである。この場合、架空の経費を計上して所得を秘匿することは、事実に反する会計処理であり、公正処理基準に照らして否定されるべきものであるところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできないと解するのが相当である。したがって、前記支出について損金の額に算入することを否定した原判決は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

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